2021-06-23 22:27:49
大荷物を馬にけん引させ、男は森の一本道を歩いていた。
夜分遅くなると魔物が出現するという危険な森だ。
まだ日は高く、魔物が跋扈しはじめるころにはすでに森を抜け、荷を安全に目的地まで運べるはずだったのだが、それもつかの間、男の耳に怪しげな笑い声が飛び込んできた。
「フフフー。このアキさんのいるまえでは、その荷は決して安全に運ぶことはできないよ~~~」
男が笑い声のするほうへ振り向くと、そこには上半身が裸のアキタツが仁王立ちしていた。
「なんなんだお前は!? さては野党か!?」
男がアキタツに質問をするやいなや、アキタツは男の胸ぐらをつかみ、そのまま天高く男の体を振り上げると、その勢いのままに足元のぬかるみの深くへと突き刺した。
「今のアキさんはなんぴともここを通さないんだよオオオ!!!」
やがて男の体は二対に分かち、地面に潜んでいた無数のセミの幼虫を吸収していき、一方は北半球、もう一方は南半球へと、地動によって流されていった。
千年後、それら二対の半身はアキタツの知らぬところで大地と融合し、巨大な樹木へと変貌を遂げていた。
その二対の巨大樹は、どういう因果か、世界樹「アキタツ」と呼ばれ、信仰の対象とされ、夏になると数千億匹のセミたちが群がり、幾億里先までその鳴き声を響かせるという――